高畠町有機農業産地づくり推進事業町民講座

備忘録
講師:農業ジャーナリスト 吉田太郎 氏
令和7年1月21日(火)に高畠町有機農業産地づくり講演会が行われました。
◉有機農業で元気となっている事例は国内には少ない。海外ならある。
◉徳島では2030年まで有機農業25%を目指している。
◉スマート農業法
◉スイスの農家の平均年齢は40歳以下。1000万円ほどの補助金がある。、グリーンツーリズムを行っている。、山に人が済むだけで所得保障→理由は国防と自治。
◉F2F 戦略は欧州グリーン・ディールの一環であり、生物多様性戦略が発表された同日である 2020 年 5 月 20 日に公表された。生産から消費までの食品システムを公正で健康的で環境に配慮したものにすることを目指し、自然、食料システム、生物多様性の新たなバランスを提示していることを目的としている。
◉温暖化防止、生物多様性の維持、食料確保がキー→リジェネラティブ農業と団粒構造
◉リジェネラティブ農業→日本語で「環境再生型農業」とも呼ばれる。農地の土壌をただ健康的に保つのではなく、土壌を修復・改善しながら自然環境の回復に繋げることを目指す農業を指す。
◉IFORM(アイフォーム)は、International Federation of Organic Agricultural Movementの略で、有機農業の普及を目的とした国際NGOです。有機農業の基準に関するガイドラインを示したり、普及活動を行っています。
◉里山イニシアチブ→都会と田舎が協力して、田舎の山に大豆を植えて、豆腐と醤油をつくった。
◉宮崎県綾町→有機農産物の独自認証を行っている。
◉JAやさと→生協と連携。JAが新規就農の農場を持っている。ゆめファームやさと。他の地域で使えるかわかりませんとの事。
◉埼玉県小川町は19%が有機
有機ならアレルギーにかからない?
◉ロンドン大学セントジョージ医学校の疫学者、デイヴィッド・ストラカン(David Strachan)名営教授が初めて提唱した「衛生仮説」
◉ヘルシンキ大学のタリ・ハーテラ(Tari Haahtela)名誉教授→生物多様性の喪失と疾患が関連
◉アシネトバクター属の細菌、アシネトバクターが皮膚に棲んでいるほどアレルギーにかかりにくい
◉アーミッシュ(アマン派)とフッター派は18~19世紀にかけてドイツから米国に移住→いずれも、遺伝的に共通し、とりわけ、喘息にかかりやすい道伝子。
◉ドイツ風の農産物、大家族で暮らし、牛乳を飲み・テレビを見ず、その他電化製品も一切使わない
◉フッター派は工業型農業(トラクターを運転し、農薬、モノカルチャー)
◉フッター派は米国内で最も息の発症頻度が高く子どもたちの23%が思っている→子どもたちの血液中には各種アレルゲンに対するIgE抗体が高濃度で存在→アーミッシュの子どもたちは喘息の発生率が低い
腸内細菌のパワー
◉人間が分解できない繊維を分解して工ネルギーに
◉ ビタミンB群やビタミンKを製造→ビタミンDを活性化→フリーラジカルのダメージから炎症を防ぐ
◉ 短鎖脂肪酸はカルシウム等のミネラルの吸収を助ける
◉ 短鎖脂肪酸は腸細胞を刺激し、ホルモン、インクレチンを分泌させる→インスリンの分泌を促す
◉ 短鎖脂肪酸→ホルモン、レプチンを放出→満腹感
◉ 短鎖脂肪酸→細胞同士をつなぐタンパク質の鎖を厚くしリーキガットを防ぐ
◉ 悪玉バクティアを駆除短鎖脂肪酸→pHも6.5の弱酸性→病原菌の成長を阻害→悪玉菌pH7.5~7.6と弱アルカリ性
食生活等が老化を決める
◉ 最も顕著な衰えが見られるのは免疫系
◉ 何度も侵入者との戦い、小競り合いの度にダメージ→加齢とともに蓄積して免疫系全体の機能を低下「免疫老化」
◉ 免疫系で炎症誘発傾向が高まる→軽度の炎症を引き起こした腸を好む腸内細菌はその炎症を慢性化させる→悪循環
◉ 腸に炎症→アルツハイマー病、関節炎、認知症等、老化と関連した疾患
チャールズ・エルトンの「侵略の生態学」
①消費型競争
タダの虫(ひよりみ菌)が害虫(病原菌)の棲息空間や栄養源を奪う
②干渉型競争
天敵(善玉菌)→捕食や抗生物質
③競争からの解放
生物種を死滅→栄養源がある
→頑強な生物種が生きのびる
→競争相手の死滅で生じた空白の中で増殖
生物多様性=無農薬が可能
◉ 生態系は、生物個体、個体群、群集からなっている→複雑な網状の相互関係
◉ 多くの個体群が相互作用することで、それぞれの階層レベルでは下の階層レベルには存在しない特性が上位のレベルでは出現→個体群となると個体レベルでは理解できない特徴を持つ「創発特性(emergent property)J
◉ はなあぶ、森昭氏:田んぽの生き物調査「鳥類に優しい水田がわかる生き物多様性の調査・評価マニュアル」→2018〜2021年と最高ランクの「S」評価→2020年に中国地方では、トビイロウンカが威をふるい、農薬を散布しても基大な被害が生じたが、氏の水田ではウンカが飛来しても被害なし
◉ 地下の土壌生態系→フザリウム菌が慣行農場の7倍も多くいるが他の微生物が多様で被害がでない
多様性が豊かなほど回復
◉ 多様性はすべての自然生態系に内在する特性→ひとたび多様性が生み出されると、それは自己強化
◉ 生態学者の研究→多様性が高いほど環境の摂動や攪乱に対する抵抗力が高くなる
◉ 多様性が低い生態系では攪乱によって機能が失われるが、高い生態系はレジリアンスが強く、攪乱から回復
◉ 多様性が高いほど、生物種間の共存や有益な相互関係が増す。すでに有用な種が占拠していれば雑草などの有害な先駆的侵入者も入り込めない
食と農と予防医療で地方経済を再生
◉ トヨタの税収→10%しか地元還元されない→外国の研究者
◉ 物々交換のメリットは消費税を払わないですむとである
◉ 日本の消費税10%のうち、都道府県が手にする分は1.1%、市町村が1.1%にすぎず、7.8%は中央政府に流出する。地方住民が地元のスーパーで支払う売上税が大都市に所在する大企業の法人税の減税の穴埋めに使われるくらいならば、金銭のやり取りを基にするGDPに貢献しない方がよい
◉ 100万円を生産するために農林水産業部門は0.26人と最大の人手を要する→新たに一人の雇用を創出するうえで、最低の379万円(100万円=0.2639しかかからない→最も少ない投資金額で一人の雇用を生み出せるのが農林水産業
地域ぐるみの取り組みについて考える
2024年8月6日、東北農政局主催の有機農業を推進するためのフォーラムが会場とオンライン併用で開催された。秋田県立大学名誉教授の谷口吉光さんと有限会社大郷グリーンファーマーズ代表取締役の西塚
忠元さんが基調講演を行い、山形県米沢市と福島県喜多方市の事例報告が続き、東北農政局、龍澤直構生産部長のコーディネートで、参加者によるパネルディスカッションがなされた。
各地に有機を広めるうえでも参考となる内容が多々あることから、オンラインで参加した本誌の吉田太郎編集委員長が、谷口名誉教授の基調講演と後半の議論を中心に内容を紹介する。
オーガニックビレッジは有機の地産地消
農水省はみどりの食料システム戦略を踏まえ、地域ぐるみで有機農業に取り組む産地創出に取り組む市町村をオーガニックビレッジとして支援することとした。2025年までに100、2030年までに200市町村を創出するとの目標を掲げたが、6月25日時点ですでに124市町村が手をあげ目標を超えた。
2006年に有機農業推進法が策定されてから、有機農業に対する支援策(エコの農産物安定供給体制構築事業等)は設けられてきたが、生産は地域で、加工・流通・消費は地域外で行うという産地づくり政策だった。「流通や消費に対しては、『地域外の実需者と連携してやってほしい』と地域が入ってこなかった。ですが、オーガニックビレッジでは生産から消費までが入っていて、なおかつ市町村でやるとの縛りもある。農水省の補助事業の中で消費まで視野に入れたのは初めてではないか」と谷口さんは評価し、オーガニックビレッジが目指すものを「有機農業の地産地消」と表現する。
有機農業が持つ「機能」と消費者意識の変化を意識し有機農業の社会化を
水田除草ひとつとっても、日本海側に適した決め手となる技術がない。
自然生態系を活かした病害虫防除技術も開発されていない。有機農家そのものが少なく、技術指導できる指導者もいない。加えて、「有機農業ではできない」というのが慣行農家の常識となっている。いくら「みどり戦略」を打ち出したからといって、手順を踏んだていねいな慣行からの転換プログラムがなければ有機農業の拡大は見込めない。
谷口さんは、有機農業への転換が抱える課題を冷静に分析する。そして、社会学者として、従来の産地化の論理ではその進展が説明できないケースとして、コウノトリと共生するまちづくりを進める兵庫県豊岡市と、有機学校給食で有名な千葉県いすみ市の事例をあげる。
豊岡市が推進してきたのは、コウノトリも住めるまちづくりだった。
コウノトリの餌は水田に棲息するドジョウやカエル、昆虫だ。自然放鳥されたコウノトリが暮らせるようにするには、水田を餌場にしなければならない。こうしてコウノトリを育む農法が誕生し、ブランド化に成功する。
「普通は農法と言えば人間のためのものなのに、コウノトリのためとは。初めて聞いた農家はびっくりしたはずである。つまり有機農業はコウノトリと共生するまちづくりという政策の手段になっている」
いすみ市も有機が目的ではなく、米価が下落する中で水田を保持するために、コウノトリが飛来する生物多様性を重視した地域づくりをしたいと大田洋市長が願ったからだった。
谷口さんは、有機農業の振興そのものを目的とはせず、移住促進による集落確保や野生生物との共生等、有機農業が持つ「機能」を地域課題の解決に役立てている地域があるとする。
そもそも産地づくりの発想が生まれたのは、有機農産物を高く買う消費者は地元におらず、意識が高い都会の消費者に売るしかなかったからだった。だから、生産技術と販路が確保されれば有機農業は広がる。
谷口さんは、こうした考え方を「有機農業の産業化」と呼ぶが、産業化の論理では有機農業は広がってこなかった。けれどもいま、人間と自然との関係に関する価値観が変わってきていると谷口さんは問いかける。
「コウノトリを育む米を買う消費者は、有機だから、美味しいから買うのだろうか。そうではない。それがコウノトリを育むからだ」
谷口さんはこの機能と価値転換によって有機農業が広がるという考え方を「有機農業の社会化」と呼んで提唱している。
これまでの農政の発想ではオーガニックの魅力が伝わらない
「有機というと『自分たちの農業を否定するのか』と慣行農家から反発される。だから、オーガニックビレッジの官言をするにあたっては、有機と慣行が、共に地域農業を作っていくことを盛り込むことが必要だと思っている」と谷口さんは続け、「大郷グリーンファーマーズの西塚忠元さんは、消費者と交流したり田んぼで生きもの調査をしたりしている。それを慣行農家は学べる。逆に有機も慣行農家から学べることがある」ことを指摘された。
「産地化するよりも地域にこだわった方がいい」との谷口さんの指摘を受けて、龍澤直生産部長は「これは、眼から鱗だった。農政局としても、地域の中で対立するのではなく、話し合ってくことと、改めて認識させてもらった」と語る。
米沢市と喜多方市の有機農業の事例報告は充実した内容で、参加者からは「行政がこうした計画を打ち出したことに感動した」との感想が出されたが、谷口さんの感想は厳しい。
「農業関係者はどうしても生産振興で頭が固まっている。米沢市も喜多方市の事例報告も、従来の農政では優等生といえるが、『わが町はオーガニックビレッジを目指す』と富言する以上、その報告ももっと魅力的な言葉、オリンピックの制服を着るような晴れがましさを感じさせるような報告であってほしい」として、魅力的な事例として大分県臼杵市をあげる。
臼杵市では元の後藤國利市長の時代から有機農業が推進されてきたが、市長が英断を下した理由は、有機農家、赤峰勝人さんのニンジンがあまりにも美味しく、それを子どもたちに食べさせたいと思ったからだという。「こうした感動があってこそ、米沢市は米沢市なりの、喜多方市は喜多方市なりのオーガニックビレッジができていく」と続けた。
価格の論理を超えて ー 韓国は日本より20年進んでいる
米沢市の赤木博幸農政課長は、有機農産物の安定した販路として学校給食を認めるが、価格が高いことを問題とする。また、野菜でも規格の問題があるため栄養教諭と協議をしているとも語る。喜多方市の小林幸太郎農業振興課長も、2割高が許容範囲だとの内閣府の調査結果から、現実に1・5~2倍はする有機農産物の価格を、どう消費者に理解させるかが課題だと語る。
これに対して谷口さんは「昨年と一昨年と韓国を調査しているのだが、日本より20年は進んでいる。日本ではいすみ市が優良事例なだが、これもスタートラインで、ゴールははるか先にある」と、冷静に現状を分析する。今後日本では、有機農業が進展すれば飽和する地域と不足する都市地域が出てきて、地域間での農産物の流通問題が生じるだろうが、韓国では、すでにそうした地域間流通も動いていて、消費者を巻き込んだ消費拡大がされていると続ける。
たとえば、ソウル郊外の100万人都市、華城市では、学校給食の食材の30%がすでにオーガニックだが、デザートが別予算として組まれ、地元産のメロンも出ると述べる。
「ファソン市の職員に理由を聞くと、『なぜ日本人は金の話ばかりするのかと。子どもたちのことを考えないのか」と逆に怒られるわけです。いま日本の農産物は買いたたかれ単価が安すぎる。学校給食も1食
350円内でやりくりするため苦労されているが、これを突破し、生産者がきちんとした見返りをもらえる道を目指すべきですし、韓国は、さらにその先を行っている」と語る。
西塚さんも、「いまの値段で農産物が買える時代がいつまで続くのかな」と本音を漏らす。現在の経営90・6haに加えて、すでに25・5haと100人分の水田の作業受委託をしているが、地元では野菜農家もどんどんやめているという。「海外の農産物の値段を聞くとびっくりします。日本はまだまだ恵まれている。海外から買えるのはいまのうちだけで、いずれ自分で食べ物を作らないと食べられない時代になって来るのではないのかなと思っている」と続ける。
戦後日本は、加工貿易立国だった。貿易の自由化で恩恵も受けてきた。けれども、谷口さんは「いま日本はグローバル化の負け組になっている。自給率が乏しい中でも輸出推進が掲げられているが、自由貿易論を問い直し、どうすれば暮らしが豊かになるかという地点から考え直さなければならない」と結んだ。
有機だからこそ担い手も確保でき農地が維持できるのでは?
農水省が主催した会議だけあって、会場からの質問は自給率から担い手の確保まで多岐にわたった。有機農業に舵を切っても食料自給が担保できるのかとの質問に対する龍澤生産部長の回答は「技術革新などオーガニックビレッジ以外の対策がある」であり、「有機農業だけでなく、慣行農業すら評価されていない。なぜ担い手が減っているのかを国として答えていただきたい」との鋭い指摘に対しても龍澤部長は「今日は有機がテーマのフォーラムである。担い手は重要な問題だが、スマート農業を含めて技術開発もしている」と答えた。とはいえ、米沢市の赤木課長は「農業であたりまえの所得が稼げれば担い手も減少しない」と述べているし、西塚さんがウェブの求人サイトで呼びかけたところ、若者を中心に「有機農業をやりたい」と20人も募集があり「この応募があったことそのものが、谷口先生が言われる有機農業の機能だ」と答えている。
こうした発言は、有機農業によって生活が成り立つことが、結局、自給率向上と担い手確保につながることの証でもあって、立場上、本省を意識したスマート農業や技術にこだわらざるをえない地方農政局の見解とのズレを感じさせた。
とはいえ、東北農政局がこのようなフォーラムを開催したことは画期的である。もちろん、稲作中心の地域とそれ以外の地域では事情が異なる。各地の農政局がこうしたイベントを開催すれば、それぞれの風土に根ざした多様な有機農業の実現につながると思うのだが、どうであろう。