「賢く縮む」スマートシュリンクとは

BS11の報道ライブ インサイドOUT(2026年7月23日放送)では、人口減少に対応する新たなまちづくりの考え方としてスマートシュリンクが取り上げられました。
番組概要
番組名:報道ライブ インサイドOUT(BS11)
テーマ:【人口減少の切り札】「賢く縮む」スマートシュリンクとは
ゲスト:青野高陽(岡山県美咲町 町長)、小峰隆夫(大正大学客員教授)
1. 導入:なぜ「スマートシュリンク」が必要なのか
日本の総人口が減少し、東京などへの一極集中が進む中、多くの自治体では行政機能の維持が困難になっています。これまでの「昔の人口が多かった時代に戻そうとする(人口減少を食い止める抑政策)」アプローチから、「人口が減ることを前提に、今いる人たちの幸せや生活の質を維持・向上させる(適応策)」アプローチへの転換が求められています。
この考え方を「スマートシュリンク(賢い縮小)」と呼び、単に1箇所に施設を集める「コンパクトシティ」とは異なり、サービスのあり方や施設の統合を工夫して、賢く効率化を図る概念であると小峰教授は解説しています。
2. 岡山県美咲町の挑戦と具体的な取り組み
岡山県美咲町は、2005年の合併で誕生し、現在の人口は約1万2000人(高齢化率約43%)。面積は山手線の約4倍と広い一方、1人当たりの公共施設面積が全国平均の2倍以上あり、将来の維持管理費が倍増する危機に直面していました。青野町長は「出ていくお金を止めるのが先決」とし、以下の改革を断行しました。
① 徹底したコスト削減と新庁舎の建設
- 新庁舎は鉄筋コンクリートではなく解体コストも抑えられる鉄骨2階建てに変更。
- 執務スペースを3割縮小、町長室は半減し、ミニキッチンを置いてお茶出しはセルフ化。冷暖房効率を高めるため吹き抜けも廃止しました。
② 公共施設の大規模な統廃合と売却
- 全施設の「施設カルテ」を作成し、利用状況や維持コストを可視化。
- 温泉施設など赤字の施設は、住民からの猛反発(リコール騒動など)を受けながらも対話を重ねて廃止を決断。
- 約40施設を解体し、10施設を売却(売却先は太陽光の蓄電池拠点や高齢者施設など)。これにより約5億円の収入を生み出しました。
- 国の「合併特例債」の期限(令和6年度末)が迫っていたため、次世代に危険な施設や負債を残さないよう猛スピードで改革を進めました。
③ 必要な機能の集約・複合化
- 新庁舎の隣に、図書館、公民館、保健センターを集約した「生涯学習センター」と「物産センター」を整備。
- 結果として、物産センターの売上が5割増、公民館利用者が7倍、図書館利用者が4倍となり、多世代が交流する拠点として活性化しました。
3. 教育現場の再編:「義務教育学校」の設立
施設再編で浮いた財源を活かし、教育環境の充実を図っています。
- 小中一貫の9年制学校(旭学園)を新設:通常、学校の統廃合は横(A小学校とB小学校)で行いますが、地域に学校を残すため、縦(小学校と中学校)で統合しました。少人数教育を活かした英語教育や、地元食材を使った給食での食育を実施しています。
- 廃校の有効活用:使われなくなった小学校を改修し、放課後の子どもの居場所(学習支援や遊び場)を整備。集落ごとに子どもが孤立するのを防ぐ場となっています。
- 結果:充実した教育・子育て環境が評価され、他地域から通う子どもが増え、戦後初めて児童生徒数が増加する現象が起きました。
4. 住民参加型の「小規模多機能自治」
行政の職員数が限られる中(約200人)、行政だけで全てを担うのは不可能なため、地域住民の力を活かす仕組みを取り入れています。
- 町を13の地域に分け、住民主体のまちづくりを推進。
- 高齢化率50%超の地区では、毎朝玄関に黄色い旗を掲げて住民同士で安否確認を実施。
- 生活道路の草刈りの担い手を増やすため、住民による「草刈り王選手権」を楽しく開催するなど、地域の課題を住民自身で解決しています。
5. 今後の課題とまとめ
インフラ(ネットワーク)の維持という壁
箱物(建物)の集約は進みましたが、道路(1000km以上)や上水道(540km)といった生活インフラは面的に広がっており、簡単に縮小できません。青野町長と小峰教授は、「県単位での広域管理」や「共同調達」、そして究極的には「住民の居住地の移動(居住誘導)」といった、より難易度の高い課題が残っていると指摘しています。
総括
小峰教授は、「人を増やすこと(移住促進など)」を直接の目的にするのではなく、「今いる住民の暮らしやすさ」を追求した結果として人が集まるのが、美咲町の成功モデルであると評価しています。
青野町長は、「人口規模=自治体のバロメーター」という考えから脱却し、補助金で人を釣るのではなく、「東京ではできないことをやり、住民の幸福度を高め、楽しく暮らせる地域を作ること」こそがこれからの自治のあり方であると締めくくりました。

