セミナー「地元で働き続ける選択肢を作り、住民の転出を防ぐ方法とは」

若者の転出と仕事の選択肢
人口減少が進む中、転出者は20代前半が特に多く、転出理由の約半数は仕事に関係するとのデータが紹介された。希望する職種や賃金・待遇の良い仕事、IT・情報通信系の仕事などが都市部に集中していることが、若者の転出につながる一因となっている。
住民の声として、「地元に残りたかったが、やりたい仕事がなかった」「子育てしながら働ける職場がなく、都市部に出た」「リモートワークができれば地元に戻りたい」などの事例も紹介された。単に地元への定住を呼びかけるのではなく、地域に残ることを選べる仕事や働き方を増やすことが重要となる。
子育てと両立できる働き方
子育て世代にとっては、仕事の数だけでなく、時間や場所に柔軟性があることも重要となる。オンライン学習では、家事や育児の隙間時間に少しずつ学べる仕組みが好評で、クラウドソーシングなど時間帯を選びやすい仕事も選択肢となる。
地域企業の働き方改善、企業誘致、移住促進、デジタル人材育成、地域内外の仕事とのマッチングなどを組み合わせ、住民が生活状況に応じた働き方を選べる環境をつくる考え方が紹介された。
安平町は小さな実証から開始
北海道安平町では、子育て・教育環境に魅力を感じて移住する人がいる一方、移住後の仕事や子育てとの両立が課題となっていた。このため「スマートワーク推進プロジェクト」を進め、「子育てと仕事が両立できる街」を将来像の一つとしている。
本格事業の前には、初心者向けの無料セミナーを開催し、ITを活用した在宅ワーク、実際に在宅ワークをしている人の体験、パソコン選びなどを紹介した。終了後のアンケートで在宅ワークへの関心を確認し、住民ニーズがあることを把握した上で本格事業につなげている。
事業は3カ年で計画し、その前年から準備を進めた。当時のデジタル田園都市国家構想交付金・地方創生推進タイプを財源として活用し、実証、ニーズ確認、事業計画、財源確保、本格実施という順序で進めている。
学ぶだけでなく実際の仕事へ
安平町では、実用的なITスキルや生成AI、在宅ワークなどを学び、対面講座、オンライン教材、Zoomによるフォローアップを組み合わせている。20代から60代まで幅広い住民が参加し、学習だけで終わらず、実際の仕事に取り組むところまで支援している。
ITスキルを独自指標で測定した結果、平均値は41から69へ上昇し、受講者がチラシやホームページを制作できるようになった事例もある。移住者と以前から地域に住む住民が一緒に受講することで、交流やコミュニティ形成にもつながっている。
地域の人が地域の人を育てる
安平町では、3年間の事業終了後も継続できる仕組みづくりが課題となっている。今後は外部事業者だけに依存せず、地元でインストラクターを育成し、「教える仕事」そのものを地域に生み出すことを検討している。
外部からノウハウを導入し、地域人材を育て、最終的には地域内で人材育成と仕事が循環する仕組みを目指す。町内事業者がデジタル分野の仕事を町外へ委託するだけでなく、地域で育った人材へ依頼できるようにすることで、「町の困りごとは町の中で解決する」という考え方につなげている。
塩尻市の公設クラウドソーシング
長野県塩尻市では、振興公社が企業から仕事を受注し、地域のテレワーカーへ仕事を委託する公設クラウドソーシングの仕組みを運営している。講義では、年間受注額が当初約200万円から約3億円まで拡大し、約800人が登録、約350人が実際に仕事をしているとの事例が紹介された。
企業との営業や契約を個人だけで行う負担を行政側の組織が仲介することで、住民が仕事に参加しやすくする仕組みとなっている。
萩市は企業誘致と人材育成を連動
山口県萩市では、企業誘致と人材育成を組み合わせている。高校生がITやAIを学ぶだけでなく、地元企業へインタビューし、仕事内容や求める人材を調べ、企業紹介や採用特集ページを制作する取り組みなどが行われている。
市内IT企業を訪問するバスツアーも実施しており、若者が地元企業を知る機会を増やしている。地域に魅力的な企業があっても、その存在や仕事内容を知らなければ就職先の選択肢にならないため、企業誘致だけでなく、既存企業を若者に知ってもらうことも重要となる。
人材育成と仕事をセットにする
安平町、塩尻市、萩市の事例では、人材育成だけで終わらず、実際の仕事や企業との接点までつなげていることが共通する。
「学ぶ」「スキルを身につける」「地域の仕事を知る」「実際に働く」という流れを一体的につくることが重要となる。デジタル人材育成は単独事業として行うだけでなく、企業誘致、移住、子育て支援、地域経済など既存施策と組み合わせることで、住民が地域に残るための選択肢を広げる取り組みとなる。
人口増加より「残れる選択肢」を増やす
質疑では、住民向けリスキリングを行うことで本当に人口増加につながるのかという論点も出た。講師からは、「この事業で人口が何人増える」と定量的に説明するのではなく、地域に仕事の選択肢が少ないために転出しているのであれば、新しい仕事や働き方を用意すること自体に意味があるとの考え方が紹介された。
事業の目的を直接的な人口増加だけに置くのではなく、住民が地域に残ることのできる選択肢を増やす施策として捉える考え方となる。
本格事業は中長期、小さく始める
安平町では準備に約1年、事業実施に約3年をかけており、こうした取り組みは1年間だけで成果を判断することが難しいとの話もあった。一方、最初から大規模事業にする必要はなく、無料セミナーなど小さな実証から始め、住民ニーズを確認する方法が紹介された。
ニーズがなければ見直し、ニーズが確認できれば本格化することで、失敗のリスクを抑えながらデータも得られる。実証で得た数字や住民の反応は、庁内や議会で本格事業の必要性を説明する材料にもなる。

