少子化の本当の理由は?

「若者の経済力がないから子どもを産まないのだ」。
少子化の原因として、こうした説明をよく耳にします。
たしかに、日本では賃金停滞や非正規雇用の増加といった問題があり、子育てにお金がかかるのも事実です。
しかし世界全体の数字を見ると、経済成長して豊かになった国ほど出生率が下がっているという、逆方向の動きがはっきり確認できます。
この記事では、できるだけ具体的な数値を使いながら、
- 経済成長と出生率が実際にはどう動いてきたのか
- 日本人の「結婚・子ども」に対する本音が、どのように変化しているのか
- なぜ「貧しさだけ」では少子化を説明できないのか
を整理してみたいと思います。
1. 世界の数字で見る「豊かになるほど子どもは減る」という現実
1-1. 世界平均:70年でほぼ半分に
世界全体の合計特殊出生率(女性1人当たりの子ども数)は、
1950年代には約4.9人でしたが、2023年には2.3人まで低下しました。
つまり、たった70年ほどでほぼ半減したことになります。
また、国連推計では、
- 2020〜25年の世界平均:2.35人
- 先進地域(more developed regions):1.51人
- 途上地域(less developed regions):2.47人
とされており、豊かな地域ほど子どもが少ないという構図がはっきり出ています。
1-2. OECD諸国:60年で「3.3 → 1.5人」
OECD(主に先進国)の平均を見ると、1960年の合計特殊出生率は3.3人でした。
それが2022年には1.5人まで低下し、60年でちょうど半分になっています。
- 2010年代以降、多くの国で2.1人(人口を維持する目安)を下回っており
- OECD報告書も「出生率の半減は将来世代の繁栄を脅かす」と警鐘を鳴らしています
ここには、「若者が貧しくなったから子どもが減った」という単純な因果では説明しきれない長期的な構造変化があります。
G20諸国や先進国の出生率は、ほぼすべての国で低下傾向(または低水準での横ばい)にありますが、「全てが同じように下がっている」わけではなく、いくつかのグループや例外的な動きもあります。
結論から言うと、長期的なトレンドとしては「全部下がっている」と言って差し支えありませんが、減少のスピードや現在の水準には大きな差があります。
現状をわかりやすく整理しました。
1-3.世界の動向
① 危機的な「超少子化」グループ(出生率 1.0〜1.3以下)
ここが最も深刻で、日本も含まれます。
- 韓国: 世界最低レベル。2023年は0.72で、2024年も0.7台前半で推移しています(ソウルなど都市部は0.5台)。
- 中国: 急速に低下中。1.0付近まで落ち込んでいます。2024年は「辰年(ドラゴン・イヤー)」の縁起の良さでわずかに反発する可能性が指摘されていますが、長期的な減少傾向は変わっていません。
- 日本、イタリア、スペイン: 1.2〜1.3前後で、長年低迷しています。
② 「緩やかな低下・横ばい」グループ(出生率 1.5〜1.8程度)
下がってはいますが、①のグループよりは高く、移民などで人口を維持しようとしている国々です。
- アメリカ: かつては先進国の中で高め(2.0近く)でしたが、近年は1.6程度まで下がっています。
- イギリス、ドイツ、フランス: 1.5〜1.8程度。フランスは欧州の中では高い方ですが、それでも近年は低下傾向にあり、戦後最低レベルを更新しています。
- ロシア: 1.4程度。ウクライナ侵攻の影響もあり、出生数は歴史的な低水準になっています。
③ まだ比較的高いが「下がり続けている」新興国グループ
G20に含まれる新興国ですが、かつてのような爆発的な人口増加は終わりました。
- インド: ついに「人口置換水準(人口を維持できるレベル)」である2.0付近まで下がりました。
- インドネシア、南アフリカ、サウジアラビア: まだ2.0を超えていますが、これらも明確な右肩下がりのトレンドにあります。
2. 日本の数字:経済は6倍以上になったのに、出生率は半分以下に
2-1. 出生率の推移:2.2人 → 1.2人 → 1.15人
日本の合計特殊出生率は、1960年代後半に2.2人前後(1967年に2.23人でピーク)でしたが、
少子化が進んだ結果、2023年には1.20人まで低下しています。
さらに2024年の速報では、出生数は68万6,061人、合計特殊出生率は1.15と過去最低を更新したと報じられています。
2-2. 経済成長との対比:1人当たりGDPは約6倍に
一方で、日本の1人あたりGDP(名目)は、
- 1960年:約6,389ドル
- 2024年:約37,145ドル(過去最高)
と、約6倍に増えています。
しかし出生率は、同じ期間に2.2人 → 1.2人前後へと低下しています。
「経済が豊かになれば、子どもをたくさん産めるようになるはずだ」
という直感とは、まったく逆の動きが現実の数字として表れているのです。
3. 韓国など他国の例:爆発的な経済成長と歴史的な超少子化
日本だけの特殊事情ではありません。同じ東アジアの韓国を見ると、より極端です。
3-1. 韓国:「約6人 → 0.7人」、GDPは200倍以上
韓国では、1950年代の合計特殊出生率は約6人でしたが、2023年には0.7人を下回る水準となり、世界最低レベルになっています。
一方、1人あたりGDPは、
- 1961年:約94ドル
- 2023年:33,121ドル
と、およそ200倍以上に増えています。
それでも出生率は「6人 → 0.7人」と9割近く減少しました。
韓国は決して「若者が極端に貧しい国」ではなく、むしろ日本と同程度の所得水準に達しています。
4. 日本人の「理想」と「現実」のギャップを示す数字
では、日本人は「そもそも子どもがいらない」と考えているのでしょうか。
ここで、日本の代表的な調査である「出生動向基本調査(16回、2021年調査)」の結果を見てみます。
4-1. 夫婦の理想子ども数と現実
同調査では、
- 夫婦が理想とする子ども数(未婚者を含む「希望」):
- 男性平均:1.82人
- 女性平均:1.79人IPSS
- 既婚女性(45〜49歳)の完結出生児数(実際に産んだ子どもの平均):
- 1.81人(前回1.86人から低下)
- 夫婦が「最終的に持つつもりの子ども数(予定数)」:
- 平均2.01人(前回調査と同じ)
つまり、多くの夫婦は今でも「2人ぐらいは欲しい」と考えているにもかかわらず、
実際にはそれ以下にとどまりがちだ、という「理想と現実のギャップ」が数字に表れています。
5. 「なぜ理想どおりに持てないのか」を数字で見る
5-1. 経済的理由はたしかに大きい
同じく出生動向基本調査で、
「理想の子ども数を持てていない理由」を尋ねる項目があります。
その結果、
- 「子育てや教育にお金がかかりすぎる」を選んだ夫婦が52.6%で、
最も多い理由となっています。
この数字からも、経済的負担が重くのしかかっていることは間違いありません。
しかし、ここから先が重要です。
5-2. 「そもそも結婚しない」理由は、非経済的なものが多数
財務省が2025年にまとめた資料によると、
25〜34歳の未婚者に「結婚しない理由」を尋ねた調査(出生動向基本調査の分析)では、財務省
- 「結婚相手としてふさわしい人にまだ出会っていない」
- 男性:43.3%
- 女性:48.1%
が最も多く、次に多いのが
- 「独身の気楽さや自由を失いたくない」
- 「まだ結婚する必要性を感じない」
といったライフスタイルや価値観に関わる理由でした。財務省
経済的な理由(「結婚後の生活費が不安」「十分な収入がない」など)は、
たしかに一定数ありますが、最多の理由ではありません。
また、別の全国調査(2023年、20〜49歳の未婚者1,200人)では、
- 「結婚したくない理由」として
- 女性の40.5%が「自分の活動やライフスタイルに制約がかかるから」
- 男性の42.5%が「経済的余裕がなくなるから」
と回答しています。
ここでも、
- 男性は「経済的余裕」の問題を感じつつ、
- 女性は「自分のライフスタイルが制約される」という価値観の問題を強く意識している
という、性別で違う「本音」が数字に表れています。
5-3. 若い世代では「結婚してもしなくてもいい」
毎日新聞が2023年に紹介した調査によると、
日本のZ世代(おおむね10代後半〜20代半ば)の約6割が、
「結婚しなくても構わない」と答えています。毎日新聞
また、出生動向基本調査(2021年)では、18〜34歳の未婚者で
「いつかは結婚したい」と答えた割合が、前回調査よりも低下し、
- 男性:81.4%(前回85.7%)
- 女性:84.3%(前回89.3%)
となっています。
「いつかは結婚したい人」が多数派であることは変わらないが、
その割合はじわじわと減り、
「別に結婚しなくてもいい」という価値観が広がりつつある
というのが、数字から読み取れる変化です。
6. ここまでの数字から見えてくること
ここまでに挙げた数字を、ざっくり整理してみます。
- 世界レベルでは
- 1950年代の世界平均出生率:4.9人
- 2023年:2.3人
- 先進国平均は1.5人前後まで低下
- 日本では
- 1960年代後半の出生率:2.2人前後
- 2023年:1.2人、2024年:1.15人
- 1人あたりGDPは1960年比で約6倍に増加
- 韓国では
- 出生率:6人 → 0.7人未満
- 1人あたりGDPは約200倍以上
- 日本人の意識は
- 夫婦の「最終的に持ちたい子ども数」は2.01人で、今も2人前後を望む
- しかし、現実の子ども数はそれより少ない
- 理由の1位は「子育て・教育にお金がかかり過ぎる」(52.6%)
- ただし、そもそも結婚しない理由の1位は「ふさわしい相手に出会っていない」
次に「独身の気楽さや自由を失いたくない」「結婚の必要を感じない」など、価値観由来の回答が続く
この全体像から言えるのは、
経済的な負担や不安が「ブレーキ」として効いているのは確かだが、
そもそもハンドルが「子どもを少なくする方向」に切られているのは、
ライフスタイルと価値観の変化である
ということです。
7. 少子化を「若者の貧しさ」だけで説明しないために
ここまでのデータを踏まえると、
- 「若者の所得が低いから少子化になった」という説明だけでは、
世界的な長期トレンドも、日本の現実も説明しきれない - むしろ
- 女性の高学歴化・就業拡大
- 都市への人口集中と都市型ライフスタイル
- 結婚や家族を「義務」ではなく「選択肢」と見る価値観
- 子ども以外の幸せ(趣味・仕事・一人の時間など)の多様化
といったライフスタイルと価値観の変化が、出生率低下の「エンジン」になっている
と考える方が、数字とよく整合します。
もちろん、
- 子育てや教育にかかる費用の高さ
- 住宅費の負担
- 不安定な雇用
- 長時間労働
などの 経済・制度の問題を軽視してよいわけではありません。
ただ、それらだけをいくらいじっても、
「結婚して子どもを持つこと自体が、魅力的な人生の選択肢として見えない」のであれば、
少子化はなかなか止まらないでしょう。
8. 「元に戻す」のではなく、「今の生き方に合った子育てのかたち」を
少子化対策というと、
つい「昔のような家族モデルに戻そう」という発想になりがちです。
しかし、ここまでの数字が示しているのは、
世界的に見ても、日本社会においても、
価値観とライフスタイルはすでに大きく変化しており、
元には戻らない
という現実です。
だからこそ必要なのは、
- 今の生き方(働き方・暮らし方・価値観)を前提にしながら
- それでも「本当は子どもが欲しい」と思っている人が諦めなくて済む社会
をどう設計していくか、という視点だと思います。
そのためには、
- 長時間労働の是正と、男女ともに「時間の余白」をつくること
- 保育・学童・病児保育などをインフラとして整備すること
- 「子どもを産む=女性だけがキャリアを犠牲にする構図」を変えること
- 結婚・未婚・事実婚・ひとり親など、多様な家族の形を前提に制度設計すること
など、価値観の変化を前提にした政策・地域づくりが不可欠です。
おわりに
少子化の議論では、しばしば
- 「最近の若者は贅沢だ」
- 「我慢が足りない」
といった言葉が投げられます。
しかし、数字を丁寧に追っていくと、
少子化は特定の世代のわがままではなく、
- 経済成長
- 都市化
- 女性の高学歴化・就業拡大
- 社会保障の整備
- 個人の自由や多様な生き方を重視する価値観
といった社会全体の変化の結果であることが見えてきます。
だからこそ、
少子化を「若者のせい」「経済のせい」だけに押し付けるのではなく、
変化したライフスタイルと価値観を前提に、
子どもを持ちたい人が、安心して持てる社会をどうつくるか
を、数字を踏まえながら落ち着いて議論していくことが、
これからの私たちに求められているのではないでしょうか。

