1/22「雲南市・美郷町」行政視察

雲南市議会視察
雲南市と高畠町の比較
| 項目 | 雲南市(島根県) | 高畠町(山形県) |
|---|---|---|
| 区分 | 市(6町村合併) | 町(単独) |
| 人口 | 約34,000人 | 約21,000人 |
| 面積 | 553.1 km²(広大・分散型) | 180.2 km²(コンパクト型) |
| 当初予算規模 (一般会計) | 約280億〜300億円 インフラ維持コスト大 | 約110億〜120億円 効率的な運営規模 |
| 財政力指数 (3カ年平均) | 0.24 前後 国への依存度が高い | 0.44 前後 地方町村として比較的高水準 |
※人口が高畠町の約1.6倍に対して予算規模は約2.5倍以上となるのは、雲南市の面積が広いからです。
ソーシャルチャレンジバレー

ソーシャルチャレンジバレーとは
「ソーシャルチャレンジバレー」とは「地域課題を解決したい」「新しい価値を作りたい」という人の挑戦を、市全体で全力応援するプラットフォームです。
雲南市視察研修(ソーシャルチャレンジバレー/地域自主組織)要約
雲南市役所政策推進課より、地方創生の全般統括と「若者チャレンジ」「企業チャレンジ」の現場担当の立場で、 雲南市が進める「ソーシャルチャレンジバレー」全体の取り組みと、その土台となる「地域自主組織」について説明が行われた。
雲南市の概要

自然・資源
- 市役所から見える斐伊川の対岸に、約2kmの桜並木のトンネルがあり、4月には約15万人が訪れる名所となっている。
- 「菅谷たたら高殿」がある(もののけ姫の舞台と説明)。
基礎データとまちづくりの前提
- 平成16年、旧町村の対等合併で誕生(昨年20周年)。
- 面積は約555平方キロメートル(東京23区とほぼ同じ)。
- 人口は約3万3,000人で、高齢化率40%超の中山間地域。
- 広い市域で将来的に住民サービスを行き渡らせることが厳しくなる見通しの中、合併当初から「地域自主組織」を基盤に、市と地域の協働による地域づくりを開始した。
新ビジョンと全体戦略(ソーシャルチャレンジバレー)
新ビジョン「エスコナ雲南市」
今年度(4月)から「エスコナ雲南市」を掲げ、「エスコナ」を出雲地方の方言で「ちょうどいい感じ」=英語のWell-being相当として説明している。
地方創生総合戦略の考え方と重点戦略
10年前の戦略策定時点で「人口減少は止められない」を前提にしつつ、「人口の社会増(転入者増)」への挑戦を掲げた。 重点戦略は次の2本柱で整理された。
- 定住基盤の整備
- 地域課題解決チャレンジ/人材育成・確保
人口が減少しても地域で豊かに幸せに暮らすには、「まちの主体者(担い手)」をどう増やすかが基盤になる、という考え方が強調された。
定住基盤整備と移住促進
評価(「住みたい田舎」ランキング)
- 宝島社『田舎暮らしの本』で4年連続(同部門)全国1位を獲得。
- 最新の2026年版(1月発表)は全国2位となり、5年連続はならなかった。
評価されている具体施策
- 雲南つながる体験プログラム:移住希望者へオーダーメイドで提供。事前面談を行い、専門スタッフが希望に沿って地域住民との調整を実施。オンライン体験も含め、「良い要素」だけでなく「ネガティブな要素」も両方体験してもらい、ミスマッチ防止と「好きづくり(つながりづくり)」を重視。
- 高校卒業後のつながり維持:市内に大学がなく、高校卒業後に7割以上が市外へ出る状況を踏まえ、卒業式前日にLINEグループ登録を促し約9割が登録。卒業後も雲南の情報や活動情報を発信し、関係人口の創出につなげる。
- 「ソーシャルチャレンジ」を応援する風土:挑戦を後押しする文化自体が移住者からの評価ポイントになっていると説明。


子ども・若者のチャレンジ(教育魅力化/キャリア教育)
子どもチャレンジ(教育魅力化)
- 市内3つの県立高校に、市の特別予算で「教育魅力化コーディネーター」を配置し、地域と学校をつなぐ活動を実施。
- 生徒アンケートで「雲南市が好き」「将来雲南市に貢献したい」は8〜9割と高い一方、「将来、雲南市で働きたい」は約5割にとどまり、働く場の創出が課題として示された。
キャリア教育の進め方
地域と学校が協働し、雲南の強みである「チャレンジする大人」や地域そのものをフィールドに学習する。 「社会人の語り場」やフィールド学習を通じて、壁にぶつかる経験も含めて認識を深め、より地域を知ることを目標にしている。
若者チャレンジと社会起業家育成(仕組みと成果)

育成の狙いと成果の整理
- パン屋・カフェ開業のような一般的な起業ではなく、地域課題とビジネスを掛け合わせて解決する「社会起業家」の育成に注力。
- これまでに90名超(要確認)の人材や、約9億円の経済効果等の成果が生まれたと説明。
- 地域課題解決にチャレンジする人材全体では200名以上、2011年以降に約60の事業が創出されたとされる。
伴走支援の中核:「幸雲南塾」と中間支援組織
2011年から地域プロデューサー養成講座として「幸雲南塾」を開催(現在はリニューアル)。 行政職員は3年程度で異動し継続支援が難しいこと、またビジネススキル面の課題があることから、 幸雲南塾の第1期最優秀賞受賞者(矢田明子氏)らが立ち上げたNPO法人が中間支援組織として現場に寄り添い、ビジネス感覚をもって伴走支援することが大きかったと説明された。
具体的な起業・事業事例(抜粋)
- 訪問看護ステーション(株式会社コミュニティケア):20代でU・Iターンした若手看護師3名が起業。点在する集落への訪問の非効率性にICT等で対応し、現在はスタッフ20名超に拡大。
- コミュニティナース:「ナーシング(人を気にかける)」の考え方に基づき、つながりの希薄化を再構築するアプローチとして説明。全国的な広がりがあるとされる。
- 買い物リハビリ:介護予防と買い物支援を組み合わせ、現在全国14か所ほどに拠点が広がっていると説明。
- 有害鳥獣活用(ジビエ):イノシシ被害への対応として、横浜のシェフ経験者が加工(ソーセージ、しゃぶしゃぶ肉等)に取り組む(6次産業化)。
- うんなんコミュニティキャンパス:市内に大学がないため、全国100超の大学と連携し、フィールドワークやインターン等で大学生のチャレンジを後押し(地域企業インターンが好評)。
スペシャルチャレンジ事業(若者支援の加速)
制度の概要と特徴
- 平成31年に開始。財源はふるさと納税や企業寄付を活用。
- 起業・創業や事業拡大の経費支援に加え、他補助金では珍しい「人件費」支援も行う点が特徴と説明。
区分と事例(抜粋)
- スペシャルチャレンジ・ジュニア(中高生):国内・海外研修に最大30万円程度を助成。地元産物を使ったポテトチップス開発が全国取引につながった事例が紹介された。
- スペシャルチャレンジ・ユース:高校時代の海外短期留学経験者が、大学生として地域企業で実践型インターンやSNS発信に取り組むなど、チャレンジの連鎖が生まれていると説明。
- スペシャルチャレンジ・ホップ(起業・創業):放課後に安心して過ごせる場所がない課題に対応した放課後等デイサービス開設(福祉)/プログラミング教室開設支援(デジタル)の事例が示された。
デジタル探検施設「ピコテラス」
スペシャルチャレンジ・ホップで生まれたプログラミング教室の延長として、民間主導で開設。 都市と地方のデジタル格差を背景に、3Dプリンターや音楽制作ソフト等の最先端機器を一か所に集約し、 子どもたちの可能性・キャリアを考える場、学校授業と連携して使う場として活用されている。
大学生向け:まるごとインターンシップ
地域課題解決をテーマにした長期インターン制度。 「地域おこし協力隊インターン」制度を活用し、市が活動支援費(日額約1万円等)を支給して「地域で働きながら暮らす」体験を提供する。 受入事業者にとっても、若者が帰ってきて働く環境づくりに気づく機会となり、募集枠を超える応募があるなど好評と説明された。
起業家エコシステム:「シードラボ」と企業型地域おこし協力隊
- シードラボ:先輩起業家が次世代を育てるエコシステム形成を背景に、テーマ別勉強会等を実施。
- 企業型地域おこし協力隊:シードラボと連携して全国から募集。現在5名が活動中(委託型等を含めると全体で11名程度)。ワイン工房づくり、木次駅前エリア再開発などの活動例が挙げられた。
- ゲストハウス事例(大東地域):全国185か所を巡った隊員が雲南市に戻り開業。決め手は「住んでいる人が魅力的」だったこと(地域住民とゲストが合流し関係人口が生まれる場として運営)。
若手の還流と新しい働き方
キャリア教育開始から10年が経過し、第1世代(27〜28歳)が社会で活躍していると説明された。 また、東京の企業「SOLDOUT」に所属しながら「地域活性化起業人」として雲南市へ出向し、任期終了後も島根拠点を立ち上げるなど、 雲南にいながら東京の仕事ができる環境(二拠点居住・リモートワーク)を実装している事例が示された。
大人チャレンジの土台:地域自主組織(小規模多機能自治)

仕組み(組織の概要・運営原則)
- 市内30の小学校区ごとに地域自主組織を設置し、拠点は交流センター(旧公民館)。
- 「社会教育・生涯学習」「地域づくり」「地域福祉」の3本柱で運営。
- 市の指示ではなく、住民自らが地域課題を事業化して解決する。
- 運営原則として「一人一票」(中学生以上が個人として意思表明)を掲げ、若者や女性の参画を促す。
- 各組織に平均約1,000万円の交付金を支出。補助金のような細かな紐付きを避け、地域計画に基づき自由度の高い財源として運営を支える。
具体的活動事例(抜粋)
- 買い物支援(マーケット事業):高齢化率50%超の地域で商店消失→交流センター内に独自マーケットを開設。交流センター職員がレジを兼務するなど柔軟に対応し、買い物支援に加え安否確認・見守りの福祉的役割も担う。
- 地域内交通:公共交通が不便な地域で、地域自主組織が無料送迎サービスを実施し生活の足を確保。
有機農業
- 昭和47年に「日登農業研究会」発足(木次乳業創業者・佐藤忠吉氏を中心に「どういう生き方をするか」を研究・検証する場として開始)。
- 昭和50年に日本初の低温殺菌牛乳を開発(化学肥料を使った牧草が乳房炎等につながる気づきから餌を変え、牛乳本来の力を活かす低温殺菌へ)。
- その後、青空市場、学校給食導入、生産者グループ、「木次健康農業を進める会」等へ展開。平成7年には有機・減農薬に取り組む移住者を呼び込み、奥出雲ワイナリーや豆腐工房が生まれた。
- 一方で、地域自主組織全体と有機農業の連携は「あまり進んでいない」と説明(有機は手間がかかるため地域全体で強制せず、共感する農家の研究会・グループで継続)。
- 連携事例として、地域自主組織「日登の里」がJR西日本の豪華寝台列車の立ち寄り地で田舎料理「かやぶき」を提供し、年間約400万円の売上を得ている(毎週木曜に有機野菜を使った料理を提供)。
企業との協働(官民連携):「社会実験」から「社会実装」へ
地域課題は住民や行政だけでは解決が難しい局面があること、企業側からも社会課題解決への参画希望が増えていることを踏まえ、 雲南では単なる実験で終わらせず、ビジネスモデルとして成立させ全国展開を目指す「社会実装」を前提に取り組む方針が示された。 雲南市を「課題先進地」と捉え、ここで解決モデルができれば全国展開できるという期待から企業が参画していると説明された。
具体的連携事例(抜粋)
- ヤマハ発動機:グリーンスローモビリティ(低速電動車)で「地域の最後の移動手段」を確保(地域自主組織と連携)。
- 子連れオフィス(ママ・ワークスペース):地域自主組織管理施設の空きスペース活用で企業と連携しオフィス開設、世代間交流の場にも。
- 日本郵便×コミュニティナース:「まちの保健室」事業(年金支給日に合わせ健康相談・骨密度測定等、郵便局網で見守り)。
- 物流・ドローン連携(セイノーホールディングス等):ドローン輸送×陸上輸送で物流最適化、買い物等の困りごとも含めたサービスを模索。
- SOLDOUT:デジタル人材育成と就労支援(若い女性を主対象に、雲南に住みながら都市部の仕事をリモートで行う環境整備、年間20名程度参加)。
- アルプロン:農業・畜産分野の脱炭素(中干し期間延長でメタン抑制→創出したJ-クレジット価値を農家へ還元する仕組み等)。
推進体制(地域活性化起業人/条例・総合計画)
地域活性化起業人(ソーシャルチャレンジ特命官)
- 都市(企業)と地域の橋渡しとして制度を活用し、これまでに4名を受け入れたと説明(呼称:ソーシャルチャレンジ特命官)。
- 企業の「こうしたい」と地域の「やってほしい」のミスマッチが起こりやすいため、調整・コーディネート役として重要とされた。
「雲南市チャレンジを応援する条例」
- 選挙等でチャレンジ施策に批判的意見もあった中、議会から「根拠となる条例がないのでは」という指摘・提案があり、スペシャルチャレンジ制度の審査会設置等を条例化するタイミングで基本条例として制定。
- 市長が代わっても「市民のチャレンジを支援すること」が市の責務として位置づけられ、一貫して応援する姿勢が明確になったと説明された。
第3次総合計画「エスコナ雲南」
- 令和6年4月開始。基本ビジョンは「変わらず変える」。
- 従来の39施策を分野横断の12施策に集約し、複雑課題に対応するため「シンボルプロジェクト」として官民連携チームを立ち上げ協議を進めている。
地域自主組織と自治会の違い(整理)
- 自治会:市域を細分化した単位。世帯主中心で、慣習的行事(冠婚葬祭・祭り等)が多い。身近でまとまりやすい。
- 地域自主組織:旧小学校区等の広域単位(小規模多機能自治)。スケールメリットを活かし、「一人一票」の個人参加型で、課題解決に向けた活動が中心。
- どちらが大事かではなく、自治会活動を補完しつつ地域自主組織が福祉・交通など広域課題に取り組む関係として説明。
質疑応答(要点)
- 外部企業連携の背景・秘訣:東京の中間支援NPO法人が仲介したことが大きい/企業が「一人一票」など住民主体の理念に共感したことがベース/地域課題を隠さず提示し「民間の力がどう活かされるか」を明確に伝える重要性が示された。
- 地域活性化起業人導入の考え方:国の特別交付税措置(財政支援)のメリットに加え、行政と民間の言語の違いを埋める橋渡し・コーディネーターとして有用という説明があった。
- 高校魅力化コーディネーターの業務:探究学習や地域連携プログラム運営/生徒の「やりたい」と地域事業者・リソースをつなぐコーディネート/「スペシャルチャレンジ・ジュニア」等のマイプラン伴走(各校年間15〜17名程度)。
- 世帯加入から個人加入(「一人一票」)への転換:当初、公民館から交流センター移行時は大きな混乱と反対(下請け化・負担増への懸念)があったが、「自分たちの地域は自分たちで守る」「意識を変えないと住み続けられない」という認識が広がり、徐々に転換が進んだ。
- リーダーシップ:立ち上げ時は市長や担当部局長が毎晩地域に出向き議論し意識共有を図った一方、現場を牽引したのは地域のリーダー(青年団活動等の経験を持つ会長・役員)だった、という説明があった。
考察
雲南市の取り組みは、単なる既存事業の延長や地域組織の再編にとどまらず、「行政が全てのサービスを提供し続けることが難しくなる将来」を見据えた説明の中で、統治の在り方を見直していく動きとして整理できる。人口減少を不可避の前提として捉え、行政の財源やマンパワーが縮小しても、住民の幸福や生活機能を維持していくための仕組みづくりを志向しているように受け取った。
そのための方向性として示されていたのが、行政と住民の関係の置き方を見直し、従来の「行政がサービスを提供し、住民がそれを受ける」という構図から、住民自身がまちづくりに関与する余地を広げていくという考え方である。具体的な基盤としては「小規模多機能自治」への移行が位置づけられており、従来の世帯単位の自治会に加えて、個人の意思で参加できる「地域自主組織」を重ね、地域が主体的に判断・運営できる財源(交付金等)を確保することで、買い物や移動手段といった生活インフラを、住民主体の活動・事業として維持・運営していく体制づくりにつなげていると理解した。
さらに、こうした組織面の整備に加え、取り組みを継続・波及させる要素として、「チャレンジが連鎖する」状態を目指す趣旨の説明があった点も印象に残った。地域課題に向き合う営みを可視化し、そこから若者や子どもが刺激を受けて次の担い手につながっていく、という循環を意識しているように見える。また、行政と地域の間に中間支援組織や地域活性化起業人を配置し、外部企業のノウハウを地域側で活用しやすくする調整役(通訳・コーディネート)を置くことで、地域内に閉じない形での連携・展開を図っていると整理できる。
以上を踏まえると、雲南市が行っているのは単発の地域活性化事業というよりも、住民・企業・行政がそれぞれの役割分担を調整しながら相互に作用し、地域を維持していくための持続的な仕組みの構築として捉えることができる。
美郷町議会視察

美郷町と高畠町の比較
| 項目 | 美郷町(島根県) | 高畠町(山形県) |
|---|---|---|
| 区分 | 町(山間部・小規模) | 町(盆地・中規模) |
| 人口 | 約4,300人 (減少率・高齢化率が高い) | 約21,000人 (町の規模としては大きい) |
| 面積 | 282.9 km² (山林が多く可住地が少ない) | 180.2 km² (平地があり農業に適する) |
| 当初予算規模 (一般会計) | 約60億〜70億円 特定課題へ集中投資 | 約110億〜120億円 安定した行政運営が可能 |
| 財政力指数 (3カ年平均) | 0.13 前後 自主財源に乏しく危機感が高い | 0.44 前後 企業・農地があり基盤が厚い |
| キーワード | 美郷バレー構想 山村イノベーション | 有機農業の先駆地 まほろばの里 |

美郷バレー構想

美郷バレー構想とは
美郷バレー構想は、島根県美郷町が進める「鳥獣害対策(=山くじら=イノシシ対策)を起点に、産官学民の挑戦を連鎖させる“鳥獣害版シリコンバレー”づくり」。美郷に来れば最新の技術・情報・人脈が集まり、地域活性の革新が生まれる場を目指します。構想は「山くじら物語」第1〜4章で育てた関係人口を土台に、第5章として展開する位置づけです。
美郷町視察研修(美郷バレー構想)要約
山形県高畠町議会 総務産業常任委員会が島根県美郷町を訪問し、町側から「美郷バレー構想」を中心とした取り組みの説明を受け、質疑応答・意見交換を行いました。
当日の流れ
- 開会・歓迎挨拶(美郷町議会/高畠町議会)
- 出席者自己紹介
- 美郷バレーの取り組みに関する説明(美郷バレー課)
- 質疑応答および意見交換
- 閉会

取り組みの全体像(「おおち山くじら物語」と5つの章)
美郷町の取り組みは1999年(平成11年)から開始され、約25年間の歩みを5つの章として整理しています。 「転換点(ターニングポイント)」は近年ではなく、猟友会との関係整理や組織体制の再構築を行った時期にある、という説明がありました。
第1章:獣害対策の抜本的な改革(1999年〜)…捕獲組織のあり方を根本から見直す段階。
第2章:夏イノシシの資源利活用…農家が最も困窮する夏季の駆除個体を資源化し、農家負担の軽減を図る段階。
第3章:地域づくり・コミュニティビジネス…取り組みを「点→線→面(地域全体)」へ広げ、ビジネスの手法を取り入れる段階。
第4章:定住・雇用・ローカルビジネス…活動を通じて小規模ながら新たな定住・雇用を生む段階。
第5章:美郷バレー構想(2019年〜)…町長交代を機に町の強みを再定義し、獣害対策ノウハウを町の中心施策に据える段階。
美郷バレー構想の定義と狙い
「美郷バレー」はアメリカの「シリコンバレー」に範を取った名称で、「美郷町に来れば獣害対策に関するあらゆる情報が得られ、様々な分野の人々と出会える場所」という意味を込めていると説明されました。 その“人のつながり”を通じて、地域づくりの参考にしたり、企業が当地でビジネス手法を確立したりすることを目指す、という位置づけです。
補助金に依存しない「自走型」モデルと、低コスト運営の考え方
- 美郷バレー構想は開始から「丸6年」が経過している中で、特徴として「補助金事業として進めているわけではない」点が強調されました。 参画企業が自費で町内に拠点を構え、自ら収益を上げながら事業を継続する「自走」の仕組みを構築している、という説明です。
- 行政と企業の目的が一致する「最大公約数」(企業のビジネス利益と、行政の地域課題解決)を見極め、その部分を伸ばすことで、 行政が多額の公金を投じずに企業資金も活用しながら課題解決を進める、という整理が示されました。
- 運営コストの例として、毎年開催している「美郷バレーフォーラム」の昨年度の町負担事業費は「わずか4万円」で、会場代等の一部負担にとどまる、という説明がありました。 企業側が自費で集まり、商談・情報交換を行う環境づくりに注力することで、行政の持ち出しを抑えている、という考え方です。
捕獲体制の改革
猟友会依存から「駆除班」への転換
捕獲体制について、従来は猟友会に依存していたが、旧邑智町内の猟友会支部には「縄張り意識」があり、担い手の高齢化の中で体制維持が難しい、という課題認識が示されました。 そこで町長がトップとなって指揮を執る「駆除班」へ組織を一本化し、農家や女性も免許を取得して参加する体制(現在91歳の女性も参加)を構築した、という説明です。
「しっぽ確認」廃止と不正報告の根絶
かつては捕獲したイノシシの「しっぽ」を役場に持参させ、1頭につき6,000円の奨励金を支払う制度でしたが、 夏季の駆除期間にもかかわらず「冬毛の個体」が混入するなど、不適切な報告の疑いが生じたと説明されました。
そこで平成13年4月1日から「しっぽ確認」を廃止し、職員による「現地の抜き打ち確認」へ切り替えた結果、 前年度732頭だった報告数が翌年299頭まで激減した、という経緯が示されました。 この改革には強い反発があり、当時の係長(現・原議長)と共に「稟議」という正式手続きを経て断行した、という説明です。
資源利活用と地域コミュニティへの波及(福祉・教育)
レザークラフト:高齢者の「たまり場」づくり
町内の縫製工場の文化を背景に、イノシシの皮を用いたレザークラフトを展開。 収益性のみを追うのではなく、高齢者の生きがいづくり・福祉としての側面を重視し、週1回集まる活動が地域の「たまり場」になっている、という説明がありました。
学校給食:次世代への「文化の刷り込み」
食育の観点から、学校給食にイノシシ・シカ肉を導入し、昨年度は年間26回提供。 子どもが獣害学習や農作業体験と並行して給食で食べることで、イノシシを「日常の美味しい食材」として捉えるようになることを 「文化の刷り込み」と呼び、価値継承の施策と位置づけていました。
大学・企業との「共創」による実業の推進
美郷バレーの核心は外部機関との「共創」であり、単なる付き合いではなく、双方が実利を得る「実業」として連携を推進している、という説明がありました。
- 麻布大学:町内にフィールドワークセンターを開設し、学生・研究者を年間を通じて受け入れ。大学院修了生2名が協定企業へ就職し定住に至った、という雇用成果が示されました。
- タイガー魔法瓶株式会社:理念への共感を背景に町内へ「美郷バレー営業所」を設置。製品試験だけでなく社員研修も行う拠点になっている、という説明です。
- JR西日本:廃線となった三江線(全長108km)の跡地を「森林作業道」として再生し、木材搬出の産業インフラとして活用する実証実験を実施。研究費数千万円はJRが全額負担し、町の持ち出しはない、という説明がありました。
最新技術(ドローン)の導入と、林業・防災への展開
- 林業の省力化:古河電気工業やタイガー魔法瓶と連携し、ドローンで苗木を山の上まで運搬する実証実験を実用化段階まで進めている。 今月・来月にかけて町内3箇所で稼働を開始する、という説明がありました。
- 防災への応用:河川氾濫等による集落孤立時の物資輸送に活用可能で、総務課の防災担当と連携し、緊急時のドローン物資輸送体制の構築を提案・準備している、という説明です。
新たな課題:豚熱(CSF)とシカの北上
- 豚熱(CSF):流通のために全頭PCR検査が必須となり、民間企業と連携して検査から処理・加工まで滞りなく行うシステムを維持している、という説明がありました。
- シカ:広島県側から北上している問題として言及。歩留まりがイノシシ(40〜50%)に対しシカは20%程度で、残り80%が廃棄物になる課題があり、 ドッグフードや革製品、肥料化など残渣処理ノウハウの確立を急いでいる、という説明です。
質疑応答で扱われた主な論点
- 猟友会から駆除班へ転換する際の抵抗の実態、稟議による断行、改革の起点としての「しっぽ確認」廃止。
- クマ対策における「専門性」の重要性と、「認定鳥獣捕獲等事業者」である協定企業のスキル活用。
- 連携の始まりは草の根の縁であり、行政として「補助金があるから来てください」という姿勢を捨てることが秘訣、という説明。
閉会にあたって(高畠町側の所感)
考察
美郷町の取り組みの神髄は、「人口減少や獣害という絶望的な課題を、外部を惹きつける『価値』に変換した」という発想の転換にある。
多くの過疎自治体が「補助金を活用した一時的なイベント」に走る中、美郷町は25年以上の歳月をかけて、統治構造の変革(駆除班の再編)や現場主義の徹底(現地確認)という泥臭い土台を築き上げた。この強固な土台があるからこそ、大学や大企業が「本気で研究・ビジネスをする価値がある」と認め、自費を投じて参画する「美郷バレー」という生態系が成立している。
特筆すべきは、行政マン(説明者の安田課長ら)が「企画課の机上の空論」ではなく、「現場のドロドロとした利害調整」を突破してきた経験を政策に昇華させている点である。住民を「行政サービスの受け手」から「地域の防衛者・生産者」へと変容させ、さらに外部企業を「支援者」ではなく「事業パートナー」として巻き込むことで、小さな町でも世界(シリコンバレー)を意識した産業振興が可能であることを証明している。
高畠町においても、鳥獣害や少子高齢化は共通の課題である。美郷町の「1円も出さないが、最高の課題(フィールド)を提供する」という姿勢は、財政が縮小する未来において、外部の知恵と活力を引き出すための極めて重要な戦略指針になると確信した。
研修結果の活用
島根県の先進事例から高畠町が見習うべきポイント
人口減少が進む中で、行政だけで地域課題を抱え込むのは年々難しくなっています。島根県の雲南市・美郷町の取り組みは、住民や外部(企業・大学など)の力を活かして不足するリソースを補い、単なる「イベント」や「実証」で終わらせず、継続できる形へ近づけている点に特徴があります。高畠町が見習うべき本質は、外部の力を借りながらも地域の主導権を保ち、成果が積み上がる仕組みに整えることです。
1. まず押さえるべき「成功の構造」
雲南市・美郷町に共通して見えるのは、次のような「成功の構造」です。
- 不足するリソースを補う:住民主体の運営や、企業・大学との協働で、行政だけでは対応しきれない領域をカバーしている。
- 好循環が生まれる:視察・交流・協働が増え、次の連携先やテーマが生まれやすくなる。
- 社会実装を前提にする:実証で終わらせず、運用・役割分担・継続条件まで含めて設計している。
- 属人的にしない:特定の担当者の頑張りだけに依存せず、地域や組織として回る形に近づけている。
- 成果が説明できる:人材・雇用・関係人口など、一定の「結果」が積み上がっている。
2. 雲南市から高畠町が学べること
(1)住民主体の「受け皿」を整えて、地域が動ける状態をつくる
雲南市では、行政が全てを直接実行するのではなく、地域が課題を話し合い、決めて、動く体制を持つことが重要な前提になっています。高畠町でも、地域運営が「一部の人の献身」で成り立つ状態を減らし、地域側に合意形成と実行の受け皿(話し合いの場、役割、進め方)を作ることが要点になります。
- 地域側に「話し合う場」「決めるルール」「動く人」がいることで、協働が成立しやすくなる。
- 行政との役割分担(行政=支える、地域=動く)を明確にしやすくなる。
(2)参加の設計を工夫し、担い手を固定化させない
住民主体を継続させるには、参加者が固定メンバーに偏らないことが欠かせません。若者や女性、現役世代が参加しやすい情報共有の方法、参加の入口、意思決定のルールを整えることで、担い手が広がり、世代交代にも耐えやすくなります。
(3)関係人口を「つくる」だけでなく「維持・行動化」まで運用する
雲南市では、卒業後も若者とつながるための情報接点づくりが示されています。高畠町でも、出身者・転出者・町外の関心層とつながる仕組みを作り、誰が・どの頻度で・何を届け・どの行動につなげるかまで運用を決めることが重要です。関係人口は「登録者数」だけではなく、参加・協力・仕事・寄付・紹介などの行動につながって初めて地域の力になります。
- 例:若者向けに「仕事」「住まい」「イベント」「学び」「短期参加」を定期配信する。
- 例:帰省時期に合わせた短期参加プログラムや、プロジェクト参加募集を組む。
(4)企業連携は「社会実装」を前提に、テーマと進め方を整える
企業連携を増やすこと自体は目的ではなく、地域課題の解決と企業側のメリットが両立することが重要です。単発の実証やイベントで終わらせず、最初から「継続条件(運用・費用負担・役割・評価)」を描き、成果が出やすい進め方にすることで、協働の成功確率が上がります。
3. 美郷町から高畠町が学べること
(1)補助金依存ではなく、企業が継続できる「自走モデル」に近づける
美郷町の特徴は、企業が地域に関わることが「企業にとっても継続可能な形」になっている点です。高畠町でも、町が費用を出して呼ぶだけの形ではなく、企業の事業性(収益、技術実装、拠点形成、人材育成など)と、町の課題解決が重なるテーマに集中することが重要です。
(2)外部資金・研究費・技術を、町の課題解決に転換する
行政予算には限りがあります。一方で、企業や大学、研究機関は研究費や投資、技術、人材を持っています。高畠町でも、地域課題を「研究や事業のフィールド」として整理し、外部資金が入りやすい形に整えることで、町の負担を抑えながら実装を進められる可能性があります。
- 例:農業×デジタル(作業省力化、販路、データ化)
- 例:移動×交通(地域交通の補完、予約、共同輸送)
- 例:健康・福祉×見守り(早期発見、支援の連携)
- 例:観光×回遊(情報発信、体験設計、周遊促進)
(3)連携を「雇用・定住」までつなげる導線をつくる
交流や実証は入口にすぎません。成果として強いのは、雇用や定住に結びつくことです。高畠町でも、町内事業者と大学・企業連携を結び、インターン→共同プロジェクト→採用(就職)までを一本の流れにすると、人材還流の確度が上がります。
(4)制度や運用を見直して、同じ予算でも効果を上げる
取り組みの成果は、制度や運用の設計で大きく変わります。高畠町でも、新規事業を増やす前に、既存事業の「運用」を点検し、成果が出るルール(責任の所在、確認方法、評価の仕方)へ改善することで、同じ費用でも効果を高められる余地があります。
まとめ
島根県の先進事例における核心は、不足リソースを住民と外部の力で補い、自走可能な仕組みを構築している点にある。これを踏まえ、当町においては以下の視点での取り組みが求められる。
地域活性化企業人による調整機能の強化
官民の文化や意思決定の差異を埋める「翻訳者」として、地域活性化企業人の活用が有効である。これにより自治体に不足する企画・調整機能を補完し、三者(住民・企業・行政)が強みを発揮できる体制を整備する。 これらを受け皿づくりや外部資金活用と一体的に推進することで、一過性ではない「再現性のある成功」へと導くことができる。
持続可能な官民連携モデルの構築
補助金依存型事業は期間終了後の継続性に課題が残る。したがって、地域課題の解決が企業の利益にも直結するビジネスモデルを構築し、補助金に頼らない連携を目指すべきである。
自治体の「実証フィールド」化
自治体は単なる支援者ではなく、企業の実証実験や社会実装のフィールドとなるべきである。技術・資金・人材を地域課題解決へ誘導し、運用や役割分担を初期段階から設計することで、単発の連携を継続的な事業へと昇華させる必要がある。
美郷町の担当課長の明言
・地域づくりから補助金事業を引いたら何も残らない
・国と逆の事をすれば長く続く
・お金を生むシステムをつくらなければならない
・行政が持つ地域課題と企業の利益の最大公約数を考え、最大公約数の部分の事業しか行わない

